最近の発掘調査の成果も交えて、古代史の「通説」と実際の食い違いを指摘している。筆者には氏の指摘がすべて正しいかどうかを判断するだけの知識はないが、長年研究者の多くが信じ込んできたものが、決して確実な物でないことはよく理解できた。
とりわけ日本書紀の『神武東征』、『磐井の叛乱』に関する記述については、従来信じられてきたものを大きく見直す必要があるようだ。大きなジグソーパズルも、いくつかの小片が繋がることで次第に全体像が明らかになってくる様に、一つ一つの発見を注意深く考察することが重要と感じた。
「日本」という国名が使われる様になったのはいつからか?著者が大学の歴史の講義を受ける学生に質問しても正解を答えられる者はわずかだったという。国家公務員の研修で同じ質問をしても、結果は同様だったという。対外的に正式に「日本」を使ったのは702年の遣唐使であることはほとんど全ての学者が認めるところ。(それ以前は「倭国」)そして、国内では689年の浄御原令から、とするのが有力な説とのことで正解は「7世紀末」。(注:今後の発掘による木簡の発見などでこれが更に遡る可能性はあり。)
そのほかにも「手形」「自由」「支配」など現代の日本語で日常的に使われている単語について、歴史の過程でその意味や使われ方が変化していることを具体的に指摘している。史料を読み解く場合には十分な注意が必要なことを読者に教えている。平易な文章でとても理解しやすく、これから歴史を学ぶ者に薦めたい秀逸の一書と思われる。
著者は学生時代から飛鳥の発掘に携わり、奈良県立橿原考古学研究所で数多くの古墳や遺跡の発掘調査に従事し現在同所副所長。考古学発掘調査に文献史学で得られた情報を取り入れ古墳の被葬者の比定などに成果を上げている。
本書は飛鳥とその周辺で見られる考古学遺物を、地上に現れている石造物、古墳、そして地下に眠る遺跡の3つにわけて解説している。古代の人々の信仰がどんな物だったのか、そして飛鳥の地形が首都建設にどう利用されたのかを個々の遺物に関連して具体的に説明している。飛鳥が水の都、石の都と言われる訳がよく理解できる。これを読むと飛鳥歩きが何倍も楽しくなる書である。